コンセプト

集いと椅子

     

名古屋大学・名古屋市立大学名誉教授 健康デザイン研究会代表 柳澤 忠

 人間にとって他人と程良く近づき一人にもなれると都合がよい。人の集いには様々なタイプがあるが、椅子の種類とその配置が密接に関係している。椅子の評価を集いとの関係で論じてみたい。

ここに紹介する写真の椅子はある空港ロビーに置かれたデンマーク生まれのクローバーソファである。空港に集う雑多な人々が一人で時間を過ごすのにもよいし、何気なく見ず知らずの人と会話することも出来そうである。このソファーが自由な集い空間を演出している。魅力的な形と存在感が人を集めるのだろう。

最近はオフィスで沢山の書類をため込んだ特定の個人スペースを決めないで、パソコン一つを持って自由に居場所を変えて仕事をこなすフリーアドレスと称するやり方が増えている。オフィスのロビー化と言っても良かろう。働き方改革に関連して、それに対応した椅子が工夫される必要がある。外来者を迎えるオフィスの場合、スタッフオンリーの領域と来客用スペースを分けず、全体をロビー化する傾向が出てきた。学校や図書館から病院福祉施設まで、人が集まる施設の椅子のあり方はかなり変わってきている。

こうした集いに対応した椅子の開発にナゼロ株式会社は意欲的に取り組んでいる。システムロビーチェアのシリーズは柔らかいロビーでの集いを誘っている。通常は独立した椅子を必要時に組み合わせて、簡易ベッドになるスリーパーチェアは人々が集まる空間での応急対応を提案している。多くの施設に必要な休養室や、万一の災害避難場所での居住スペースに応用出来るし、人の集まる駅などにも備えられると安心である。

街や建築が出来てから家具を選ぶ時代ではなくなった。生活を組み立てる家具を幅広く決めてから、その配置に適した建築や街を工夫しなければならない時代が到来した。良い椅子が生活を豊かにするのである。

これからの病院福祉施設の家具について

工学院大学特任教授・共生工学研究センター長 東京大学・工学院大学 名誉教授 長澤 泰

 「病院」と呼ぶ建築形態は20世紀後半に成立しました。それまで家庭でケアができない病人は非日常な環境「僧院」に隔離・収容されていました。日本の病院医療は明治時代から西洋医学を中心に発展し20世紀後半には専門技術を集中化した大規模治療工場の「病院」が成立しました。でも依然としてそこは病気なので仕方なく訪問・滞在する非日常環境です。21世紀になった現在、高齢患者の増加にも関らず、病院の在院期間短縮が求められています。そのためには入院したら病室内でほぼすべての診療が可能なAAR(Acuity Adaptable Rooms)の発想が有効です。現在米国では当たり前の発想ですが、これは病室の個室化が前提です。日本でも全個室病院が昨今次々と実現しています。

窓から樹木の見える外科個室の患者の術後退院日数が短いという研究が1980年代に発表されました。療養環境の良さが治療に寄与するという証拠が得られたのです。そこで今までの「病気の館」ではなく、癒しを助ける「健康の館」すなわち「健院」という言葉を考案しました。病気に対応する「病院」から健康を回復する「健院」への移行です。そうすれば「健院」は病気なので仕方なく通う所でなく、行けば病気が治ってしまうような楽しい日常的環境となります。「病院」なので「病室」、「健院」ならば「健室」になります。

患者さんの早期離床が回復を早めることは半世紀以上前から常識になっていますが、日本の病室ではこの観点が不足しています。これはまず、ベッド以外に患者さんのいる場所がないほどの病室の狭さに現れています。

「デイルーム」は多くの病棟に見られるようになりました。この部屋はもともと「デイ(昼間)」に病室以外で過ごせるスペースとして提案され実現したものです。「健室」では、まず昼間はベッドから離れてストレスを軽減し、早く退院できるための広さとそれに応じた家具が必要です。さらに患者さんだけでなく付き添いの方やご家族が快適に過ごす環境を考えなければなりません。そのための大きな要素が家具です。

“健康デザイン®”をテーマにした家具メーカー、ナゼロ株式会社では、狭い病室の中で、付き添いの方が寝るための、スリーパーチェアを8種類ほど開発しています。また、病室には見舞客用のイスでなく、患者さんがベッドから降り、座るためのイスが必要と感じ、食事もベッドの上でなく、体を保持することのできるイスの開発を行っています。今後も「健室」の充実のための家具開発を期待したいと思います。

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